あじさいの花 拝啓 あじさいの花が日に日に むらさき色をふかめている候 いかがお過ごしですか わたしは相変わらず 仕事に忙殺されています 夢はまだ途上です あの頃　さくらの花は 毎年いっしょに見上げていましたが あじさいの花をふたりで 見たことはありませんでしたね ふたり同時にうつむくのが 怖かったからかもしれません わたしたちはけっきょく 陽のあたる場所には出られませんでした あなたの暮らしはほとんど 土砂降りといった様相でしたし わたしたちのおつきあいも 嵐のような日々でした それでもわたしにとって あなたがとなりにいた時間は ひだまりにいるようでした それがたとえ暴風雨をよけて 防空壕に逃げこむような 時間であったとしても 最後までわたしはあなたに 虹の橋を架けてあげられなかった ずぶ濡れのあなたを 乾かしてあげることもできなかった そんなじぶんの非力をただ 悔やむばかりです わたしは今も 虹をつくることなどできず ただ詩をつづるばかりですが それがせめて雲間から射す わずかな光となって いつかあなたに届けばと 願うばかりです あじさいの花が咲いています 雨にふるえてなおうつくしい姿が どこかあなたに似ています わたしがいま望むのは このたおやかな花にいつか ありあまる陽がそそぐことです 　　　　　　　　　　　　　　敬具