雨をよけて歩け



雨に唄えば　こころは蜂の巣

キオスクで買った透明傘じゃ

練馬区を歩くのは難しいぜ

街の貧しい価値観を作り上げている

大量消費音楽　洗脳月刊誌

ろくでもないＴＶショー　眩しいネオンサイン

ビッグウェーブを待つだけの僕らは

悲しき監獄の丘サーファーさ

雨をよけて歩け


君と生きてゆけないことは

初めて部屋に来た時から分かっていた

「ホワイトアルバム」を聴きながら

君は「I Will」と「Ob-La-Di,Ob-La-Da」が好きだと言い

僕は「Yer Blues」と「Revolution9」が好きだと言った

そしてヒーターをつけて僕らは

抱き合ったのだった


雨に唄えば　純真は霧の中

踊りを忘れた人々　フィラメントの死んだ街灯

ミニストップのレジを打っていた親孝行の青年は

金を神と崇める暴漢に撃たれた

濡れねずみの僕は信号待ちの間

ラッキーストライクに火をつけて

ニュースの最終回を待っている

雨をよけて歩け


思い出も残さず別れることは

三度目に部屋に来たとき確信した

「アマデウス」を観ながら

君は「フィガロの結婚」のオペラにしびれていて

僕はサリエリの心情ばかり追い続けていた

そして部屋じゅうの明かりを消してぼくらは

舐めあったのだった


えせヌーベルバーグがやってきて

ジパングの民は沈没船の上

揺れながら陽気な健忘症の宴

甲板の上にも降り続く

雨をよけて歩け

それだけが今は　明るすぎる闇で

命をつなぐ選択だ


ぼくらはもっと誠実だった

「月光仮面」がまだ

正しく悪を懲らしめていた頃

「シンギン・イン・ザ・レイン」がまだ

美しい響きを奏でていた頃