アナログ



そのほほえみにやられ

くらくら回りだしたぼくの胸に

あなたがそっと針を落として

恋の序曲は始まった


アナログで不器用な

ふたりの奏でる旋律は

はなからノイズ混じりで

たよりなかったけれど


それは喜びにあふれた

メジャーコードで

A面のリズムは常に

ワルツだった


つづきを聴かなければと

あなたはぼくをB面に返し

ふたたび針を落として

愛の序曲がはじまった


やがてふたりの旋律は

壮大なシンフォニーとなり

ときにしずかな

バラードとなったが


いつしか針も溝も

すり切れだして

やがて不協和音の

終曲を迎えた


アナログで不器用な

ふたりだったから

デジタルのように自動で

リピートされるはずもなく


もういちどA面に返す力も

針をあげる手もないまま

あなたは去った

くらくら回るぼくをのこして


歌い尽したあとの溝を

錆びた針が引っかいている

ノイズだけが延々とつづく

ボーナストラックみたいに