青猫



部長に誘われて飲みに行ったら

ひどいカラオケをさんざんきかされたあと

お気に入りの腕時計を取り上げられた

返してくださいよと言うと

オマエノモノハ オレノモノダロ?


ぼくは家に着くなり押入れの襖を開け

青猫に泣きついた 助けてくれよ

すると青猫 聞く耳持たずといった感じの

まんまるの頭で しらねえよ

じぶんでなんとかすれば? と言った


翌朝 隣のデスクの同僚に相談すると

彼は口を尖らせて ドウセ君ノハ安物デショ

ボクノナンカ ロレックスノ レアモノダカラネエ

と見せびらかされた

くやしいけど少しうらやましかった


家に帰ってすぐ押入れの襖を開け

青猫に泣きついた ロレックス出してよ

すると青猫 白いお腹に肉球をもっていき

すりすり撫でながら もってねえよ

ちょきんしてかえば? と言った


翌朝 あわててエレベーターに乗り込むと

同期のミナモトさんがいた

黒髪からただようシャンプーの香りが

ふたりきりの密室を埋め尽くし・・・

しかし彼女はつれなく5階で降りていった


帰るやいなや押入れの襖を開け

青猫に泣きついた 彼女を振り向かせてよ

すると青猫 焼菓子をほおばりながら

なんだよこれ こしあんじゃん

つぶあんじゃねえのかよ と言った


嗚呼 なんなんだよ こいつは

勝手に転がり込んできたかと思えば

ねずみを捕るわけでもなく

便利な道具ひとつ持たず

日がな一日萩原朔太郎なんぞ読んでは

のん気にタダ飯喰らいやがって

とっとと帰ってくれ!


すると青猫 喉の鈴をちりんと鳴らして 

にゃあとでも言うかと思ったら

おとなは のびたらまけだぜ

とかなんとか言って机の引き出しにもぐりこんだ

それっきり姿を見ない