アップル・パイ



食べかけのアップル・パイと

ラジオから流れるキャロル・キング

アンド・イッツ・トゥー・レイト・

ベイビー・ナウ・イッツ・トゥー・レイト

体のぬくもりとは裏腹の

冷たい口づけ


体温を奪い合うだけのような愛の後

君は指輪をはめ直し

きれいな大人の振りをして街へ消えてゆく

マンションのベランダから見送る僕に

小さく手を振って


のどの渇きを癒せぬまま

次の土曜を待つことしかできぬ部屋で

僕はひとり　君の名を呼ぶ

くりかえしくりかえし

君の名を呼ぶ

アンド・イッツ・トゥー・レイト・

ベイビー・ナウ・イッツ・トゥー・レイト


今宵　彼の胸にいる君の

あたたかい口づけを思うと

僕は遅すぎた出会いと

恋というものを呪う

それでも君の優しさに溺れ

名前を叫ぶ

名前を叫ぶ


報われぬものならば

いっそ忘れてしまえばいいのに

心奪われて

動けないんだ

叶わぬ届かぬ夢ならば

せめて今

声だけでも

たとえそれが

僕への

裁きであってもいい

君の

声を

ただ

き

き

た

い