蟻の教え



神々のお膝もとに集う人々は死を恐れなくなった

その安らかな気分たちは永遠に続くように思われた

終ワリナンテナインダ　次ノ世界ニ移行スルンダ

モウヒトリジャナイ　トモニ祈ル同志ガイルンダ


あらゆる生命体の象徴であるはずの神々はいつも

なぜ人間の形をしているのだろう


ヴォルフガング＝ダークフィールド＝ムスタファー二世

（通称ＶＤＭジュニア）は天才だ

嫌煙家で菜食主義者で十三歳の妻がいる

いつも首からエンジェルダストのカプセルをぶらさげ

乞食であり詩人であり南極観測隊のリーダーである

神を信じていない


ぼくは十六歳の時に生まれた

それは奇跡でもないし神のしわざでもない

普通に生きていればするはずのない失恋を二度した

今は国語の教師をしながら生計をたてている

愛煙家で肉食主義で独身だが

ＶＤＭジュニアはぼくの親友である


ある日　野菊の咲き誇る山で　行列からはぐれた蟻を見た

その命はぼくの気まぐれでどうにでもなるほど弱く見えた

踏み潰さないようにしながらも靴の先でもてあそんだ

必死に蟻は逃げた　蟻は何かを強烈に恐れていた

が　ぼくが気まぐれを起こさなかったおかげで

蟻は無事にコガネムシの足を巣に持ち帰った


深夜のブラウン管に映る宗教家達は祈り続けていた

ぼくはソファーに横たわり明日の予定と恋人を思った

電話が鳴る　受話器を上げる　悲痛な声がする

ＶＤＭジュニアの声だ

「愛　浴む　溢れ井戸　御湯　です･･････」


死　そこからは誰も救ってくれはしない

ああ　だからこそ今を精一杯生きてみようと思うのだ

限られた命だからこそ燃え尽きたいのだ

暮れてゆく空に向かい堂々と叫ぶ

包み隠したりしない

目をそらしたりしない

ごまかしたりしない

僕は死ぬことが

たまらなく怖いと