或る合コンの顛末



数合わせで呼ばれた合コンに行ったら

三四郎は早々に美禰子とバックれ

中座して光太郎が智恵子を送って行き

二次会に向かう途中で

健四郎が友梨亜をお持ち帰りしたので

気づいたときにおれは

河童とふたりきりになっていた


とりあえず居酒屋「天狗」に入り

おれが焼酎のお湯割りをたのむと

彼女はキュウリを注文した

ハズレ引カサレタト思ッテルデショ？

と彼女が言うので

そんなことないよと答えると

気づいたときにはお持ち帰りされていた


彼女の部屋はとても清潔で

リビングの棚には

フリートウッド・マックの全アルバムと

ウォン・カーウァイのDVD-BOXと

谷崎訳の源氏物語がきちんと並んでいて

その棚の上には

シンデレラ城の前で青年と腕を組む

写真が一枚飾ってあった


胸に顔をうずめてきて

不意に彼女が泣き出したので

おれはどうしていいか分からず

とりあえず頭の皿を撫でた

泣きすぎたあまり嗚咽が始まったので

こんどは背中の甲羅をさすった

河童の気持ちに疎いおれでも

なんとなく察しはついた


ねえ　少しばかりみんなと違くても

それでなにかを失ったとしても

自分を卑下することはないんだよ

おれだって似たようなもんさ

だからもう泣かないで

きみはハズレじゃない

知り合ってすぐどうにかなっちまう

あいつらの方がハズれてんのさ


きみは立派に掃除ができるじゃないか

「LANDSLIDE」や「天使の涙」や

紫式部の美しさを知っているじゃないか

そんな自分を安売りしないでくれ

のこのこと合コンについてきただけの

鼻を伸ばした赤ら顔の男になど

なんだかきみとは改めて

ともだちになれそうな気がするんだ


泣き疲れて火照った体を

葉団扇で煽いでいたら

そのまま彼女は眠ってしまった

おれは彼女をベッドに横たえ

高下駄を履いて部屋を出た

外は雨が降っていたが

おれはなんとか夜風をつかまえ

翼を広げて闇を蹴った