晩夏の雨



父は帰らない

勉強机の灯りだけともす部屋

窓の外は雨

少年は出窓に腰かけて

下唇を噛んでいる

遠い森に棲む栗鼠に思いを寄せ

窓をつたう雫がかわりに泣いてくれる

ミックの律動を聴いている

夏休みなんて火葬場で

灰になってしまえと


母は帰らない

引きちぎられた風鈴の吊るし糸

窓の外は闇

少年は花瓶の水を取り替えて

爪を噛んでいる

遥か沖にたゆたう海豚に焦がれ

さっき母を迎えに来た男の顔をかき消す

スティーヴィーの声を聴いている

秋なんて気の早い雪崩に

埋もれてしまえと


燃えろ雨よ　焦がせ時間を

ぼくの無力に羽をおくれ

空想だとしても　窓を割って

ゆこう　晩夏の雨のなかを

丘の祠に少女に宛てた手紙がある

舞い上がれ　恋慕よ

嫌がらせの雨にまぎれ　涙を隠せ


ひとりぼっち

切れることを願うアンクルバンド

外は晩夏

少年は硝子にひたいをつけて

静かに目を閉じる

見知らぬ砂丘に答えを探し

無から愛をこしらえようとしている

リンジーの弦を聴きながら

膝をかかえて

ただ手作りで