僕のリンゴ



誰も教えてくれない

おいしいリンゴと毒リンゴの見分け方を

だから僕は目をこらし

虫くっている方を選ぶことにした


ところが人間にとっての毒が

虫にとっては毒でないこともあるらしく

ハズレを引いた僕の手は

みるみる黒くなっていった


少しだけ

死なない程度にかじってみるという手もあるが

世の中には「おいしい毒リンゴ」というのもあるらしく

かじった本人ですらたいていは気づかない

毒はあとになってからまわる性質だから


僕の手はずいぶんと汚れてしまった


これではおいしいリンゴに巡り会えても

触っただけで腐らせてしまう

だから僕は

もう手なんか使わずに

リンゴを選ぶことにした

もう目なんか使わずに

リンゴを選ぶことにした


静かに目を閉じて

僕のリンゴを思い浮かべる

じっくりと時間をかけて

僕だけのリンゴを思い浮かべる

思い浮かんだら

それとまったく同じリンゴを探して

歩き出すんだ


だから

どんなにおいしそうなリンゴが落ちてても

誰かに美しいリンゴを差し出されても

僕のリンゴに出会うまでは

もう見向きもしません