抱きしめる



いまぼくの目に映るのが

ほんとうの赤なのか

ときどき分からなくなる

あなたの目に映る赤と

おんなじ色なのか

たしかめるすべがないから


いまぼくの目に映るのが

ほんとうのあなたなのか

ときどき不安になる

この目のとらえる像が

実体と一致しているか

たしかなこたえがないから


いま見えている月が

1.3秒前の光であるように

いまぼくの目に映るのも

0コンマ何秒か前のあなたなら


いま見えている星が

もう消えているかもしれないように

0コンマ何秒か前にあなたも

いなくなっているかもしれない


いつだって目がとらえるのは

ほんの少し前のすがたで

はなれた距離のぶんだけ

過去になってしまう


そんなのはいやだから

ぼくはそっと手をにぎる

いまのあなたをたしかめるため

ほんとうのあなたを知るために

そのままゆっくり引きよせる


そしてぎゅっと抱きしめる

あなたが消えていないことを

証明したくて

あなたがここにいるのだと

信じきりたくて


見ているだけものは

どこかたよりない

触れているものだけが

真実だ