| 遠心力 西陽が差し込む湿っぽい教室の隅 すわりの悪い椅子に行儀よく落ち着いている 仕向けられたようなルールに埋もれる俺 溜息の中 時計の秒針ばかり見つめている 点数稼ぎに精を出す 隣の彼女 このシステムの中では賢明なやり方だろう 一から教え込まれた数字争いに勝つ術は この国を幸せにできるのだろうか 公式がどうのと 怒鳴る先生よ その神様みたいな喋り方はやめてくれないか 別に俺が正しいと言うつもりはないけれど ああ このまま親父になるのを待つだけなのか 放課後はいつもの喫茶店に仲間が来る 煙草の煙と差し込む夕陽が溶け合っている 他校の連中とやり合うのは卒業したよ 残酷な社会から見ればただの暇つぶしだから 仲間の女の自慢話はもう聞き飽きたけれど 俺の夢をひやかしたりしないのは奴等だけなんだ 夜になるとシャッターの閉まった薬屋の前で いつまでも先行きのない未来ばかり語り合っている やりたいことさえもまともに見つからない俺達には 学校をやめたところで何もできやしないけれど 目の前に転がるものすべてがくだらねえよ ああ このまま当りさわりのない大人になるだけなのか そして朝が来ればまた同じ一日が始まるのさ 天気なんて関係ないぜ 大半は屋根の下にいるんだから いくら時間をずらしても逃れられない満員電車は 低血圧の不機嫌さと苛立ちを押し詰めにして走る 車内広告に刷られた女優のスキャンダルは 帰りまでに何人の人の小脇に挟まれるのだろう 窮屈なのはラッシュのせいでも制服のせいでもない かといって 誰が悪いというわけでもないんだ 腰のところでうつむくランドセルの少年 どうか化粧臭い大人達に負けてしまわないでね とぎれとぎれの幻覚の中で泣き叫んでいる君 ああ このまま大切な君さえなぐさめてやれないよ この回転からはみ出してしまえる力が欲しい 甘えだと決めつける前に耳を貸してくれ 褒めてもらいたいなんて少しも思っちゃいない ただ縛り方が強すぎて血が止まりそうなんだ もっと もっと 強くなりたいよ 権力が欲しいってことじゃなく もっと もっと 強くなるってことは どれだけ優しくなれるかってことなんだ |