銀河



　−「愛は互いを見つめあうことではなく、ともに同じ方向を見つめることである」
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　サン＝テグジュペリ



或る恋の物語


少年と少女は向かいあって

互いを見つめあった

いつまでもそうしていたかったけれど

時がくると離れねばならなかった

するとまた会いたくなって

その思いが心に火を灯し

会えるとまた見つめ合った

会えなかった時間のことを伝えあった

早く早く

また会えない日々に戻ってしまう前にと

まるで彦星と織姫のように

限られた時間の中

激しく互いを求め合った


この美しい物語は

やがていつか終わりを迎える

なぜなら恋の物語というのは

終わることが宿命だから

容赦なくジ・エンドで幕をおろす

千客万来の映画みたいに


ある人はふと魔法が解けて

ある人は他のだれかに気が移って

ある人は肉体の方が先に滅んで


恋がもれなく美しいのは

はなから終焉を孕んでいるからだ

おそらく人に授けられた恋の燃料には限りがある

大地に授けられた資源のように


ただし　儚い恋の物語を

終わらせずにすむ方法がひとつだけある

それは炎が燃えさかっているうちに

愛の物語に変えてしまうこと

それはたとえばこんな風に

客入りの悪い続編として



或る愛の物語


男と女はふたり並んで

ともに同じ方向を見つめた

もはや見つめ合うことにも飽きた顔は

隣を見ればそこにいた

するとついいがみあって

ときには水をかけあった

それでも乾けばまた並んだ

同じものを見ているから伝えなくても分かり合えた

ゆっくりゆっくりと

単調な日々を分かち合ってゆくほかはないと

まるで月に帰った娘を

見送った後の老夫婦のように

ゆるやかに互いを与え合った


このつまらない物語は

いつまでも終わりを迎えない

なぜなら愛の物語というのは

終わらないことが宿命だから

めでたしめでたしの後も

お節介に続く紙芝居みたいに


夢じゃないから覚めないし

他のだれかでは物足りないし

肉体が滅んでも愛は死なない


愛が必ずしも美しくないのは

はなから永遠を孕んでいるから

愛が恋よりつまらないのは

互いにやっかいな人生を

絡みあわせねばならないから


それでも人に授けられた愛の燃料は無尽蔵だ

汲めども尽きない銀河だ

それは彦星と織姫が会えずにいた間も

悠然と目の前に横たわっていたもの