彼は強い陽射しを背番号で受け止めたまま
ホームベース上で彼女を抱きしめた
五角形のぬくもりは優しくふたりを見守って
夏草の匂いはふたりの未来を少しだけ妬いた
次の夏 彼女は監督のサインも見ずに
突然ふたりの間を通過する白球を叩いた
三塁打だった
彼は走り出す彼女を止めることもできず
ホームベースの上で途方に暮れた
彼は悩みに悩みぬいたあげく
来る日も来る日もバットを振り続けた
血まめが何度つぶれても 本塁打しか頭になかった
三塁ベース待つ彼女を抱きかかえて
必ずここに戻ってくると
次の夏 彼女は相手チームの三塁手と恋に落ちた
彼はベンチの中でただ動けずにいた
スコアボードに反射する太陽がやけに眩しかった
ホームベースの上にはいつかプロ野球選手が残した
「不滅」という言葉が輝いていた
一周まわってこれを踏んだものだけが
真の幸せを得ることができると･･････
整備不良のグランドの隅から母校の声援が聞こえた
空では最後の夏が入道雲と戯れていた
監督から思い切り打ってこいと指示が出る
彼はヘルメットのつばを上げながらホームベースへ歩き
斜め左方向にあるふたつの笑顔を見た
そして彼は一度目をつむってから 静かに打席に入り
狙いすましたように 犠牲打を打った
