白壁　



目立った汚れもなかったし

とくべつムラも見当たらなかったので

はじめからいちめん山吹色の

きれいな壁のつもりでいた


ほんとうはヤニにやられていたんだ

あまりに均一に黄ばんでいたので

もともとの壁の色

すっかり思い出せずにいた


ああ　知ってしまったからには

塗りなおさずにいられようか

取り戻すんだ！

生まれたての命をこの手に！


やれやれこの歳になって塗り替えを

やるハメになるとは思ってなかった

ともあれ　壁を塗りなおそう

いっそ真白に塗りつぶそう


胸の奥によどむ

純真のたまりにハケをひたし

したたるほどの白を

壁になすりつける


長い時間がかかって

ようやく壁は

卯の花のように白く

綿雪のように白く


ああ　おれは取り戻したのだ

求めていた純白を！

満ち足りた気分で眺めながら

火を点け一服


見てくれ　復活をものにした白を！

知ってくれ　やったのはおれだ！

だれかが気づいてくれるように

壁に名前を書きなぐる