はく製 博物館の中を歩きつかれて ベンチに腰かけていたら ちょうどこっちを向いている 鹿のはく製と目が合った どうもはじめまして ぼくは埼玉から来ました きみは宮島からかな それとも奈良から いずれにせよこうして上野の 博物館で会ったのも何かの縁 となりの動物園で会えたら もっとましだったかな 生きていたときの姿のまま 死んでいるのはどんな気持ちですか ぼくらには想像もつきません さいごは焼かれて骨になるので 死んだときの姿のまま 生きているのはどんな気持ちですか りっぱな角をはりめぐらせて つぶらな瞳でこっち見て いずれにせよぼくはきみを ちょっとうらやましく思います もう老いることのない体や もう汚れることのない心が ぼくもはく製にされて きみのとなりに並べられたら これ以上かなしまないで すむようになるかな 永遠という 時の凍結を手に入れて 変わることのない友情を きみと交わしあって