花火



夕暮れ窓の下には花火に向かう人の群れ

消える前の蝋燭の焔のようにそれは

夏の終わりに備えた人々の盛り

そして今日もきみがドアをたたく


窓を開け放したまま

かたいベッドでむさぼり合う

腹にひびく連弾の音と

家族らの歓声にまぎれ　二人は求め合う

からだが汗にまみれるほどに

すべてが欲しいと望むほどに

たまらなく喉が渇く

たまらなく喉が渇く


心の囁きをさぐり合うように

小さなベッドで耳を寄せ合う

きみの左耳がぼくの右耳にある

その空洞が未知の音をうむ

窓の向こうの花火の色が

寝そべるふたつの背中に降る


やがて花火帰りの人の群れ

この騒ぎが過ぎれば夏は終わる

部屋にはきみの残り香と

かすかな火薬の匂い

ひとり夜どおしきみの名を呼ぶ

たまらなく喉が渇いている