判決イヴ



浅い眠りが途切れけだるさと戯れる

隣の寝顔はまるで子供のよう

やっと幸せが訪れた

汗ばむシーツの上　左手でクーラーのリモコンをさぐり

唇で君を起こし

眩しそうに半分だけ開いた瞳　安心したように笑う

窓から差し込む朝陽にのぞかれながら

何もつけていない体ごとくすぐり合うと

ベッドは幼稚園の砂場と化し

現実を見落としたふたり　ただ笑う

この朝にすべてが終わった


君を見送った後　俺はまた少し眠った

夢の中　俺は法廷に突き出されていた

被告人は俺　原告は君の父親

証人はさっき窓から差し込んでいた朝陽だけ

判決は懲役二百年だった

傍聴席で迷い込んだセミが鳴いていた

新聞の見出しに「モラルの勝利」と書かれたのは

検事も裁判官も新聞記者も

すべてえらい人間だったからだろう

マスコミは裁判の敗因を

俺が弁護士に猫を選んだことにあるとした

午後になってやっと悪夢から目が覚めた


コーヒーを入れて一気に飲み干す

汗がこめかみから滴り落ちる

どんなことが起こっても動じたりしない

愛が何かに裁かれるようならこの世界が間違っている

そう思えばこそさっき別れたばかりの君に

気が遠くなるほど今また会いたい


君からもらった二年分のラブレターを

四時間がかりで読み返すと

しつこいほど「あなたを信じてる」と書かれてある

俺は１９歳の夏をもって世界を敵にまわした

愛だけは何にも汚されない

逃げも隠れもしない　間違ったことなど何ひとつ

その瞬間　片隅に行儀よく置かれた電話が

けたたましく部屋に鳴り響いた