扁桃腺



赤くはれた扁桃腺に錠剤がふれ

つむじの先まで痛みが走る

何のために生活をつなごうとしているのかが

自分にさえもうまく説明ができない

微熱をごまかしてきたしわ寄せがきた

水枕に乗せた耳の感覚がまひしている

じゅうたんの上に放り出したままの

保険証と電子体温計と中島敦

ねえ神様

傷つけられてもいたくない

にぶいこころをくださいな


ひとり毛布にくるまっていると

消えてしまいそうになる

生まれ変わってもやはりひとりだろうか

それを知ることはできないか

落ち着きがないのは透明なやつが

胸をわしづかみにして揺さぶるからだ

目つきが悪いのは昼は川面に浮かぶ光が

夜は北斗七星がまぶしいからだ

己の人間の小ささを見た気がした

卑屈さが形を変えた不条理と

世を斜めに見る歪んだ思想

きっと間違えているのだ

どこかで道を踏み外したのだ

だがたとえ一瞬でも世の人という人を

恨まずにいられなかったおれの

おれの気持ちがおまえらにわかるか

ひとりぼっち

ひとりぼっち

ひとりぼっち

ひとりぼっち

いくら唱えてみても何も変わらない

ひとりぼっち

ひとりぼっち

ひとりぼっち

ひとり


残念なことに明日からまた

陽気さが条件の生活がはじまるぜ

深い深い海の底でな

命なんて粉々に砕け散ってしまえばいい

どこまでだめになれるか確かめてやるさ

なあ　あんた

感電するほどの悲しみを味わったことがあるかい

この苦しみがだれに分かる

だれも本当のおれを分かってくれはしない

だれも本当のおれを分かってくれはしない

もう口を閉ざして眠れ

夜よ　おお　夜よ

朝を黒く染めあげたまえ

闇よ　光を引きずり落としたまえ


人間ドモヨ　コンナニ悲シイノニ

ナゼ生キルコトヲヤメナイ

何ガアル？　アルノハ

ゴミミタイナ金ト　金ミタイナ愛ダ


やがてしょうこりもなく朝が訪れ

腕時計のアラームで目が覚める

おれはトーストに岩海苔をぬって

天気予報の花粉情報を見ながら

破壊欲で朝食をとる


駅まで歩く

まだ下がりきらぬ体温と

爆弾のような扁桃腺を抱えて

ラッシュアワーの改札をぬける

頭の中に虫がいる

どこまでいってもひとり

おまえはひとりで生きるほかはない


人間ドモヨ　悲シイコトダケレド

百億年ノ眠リカラ覚メタ愛ニ

セメテ純粋デアリ続ケタイト願ウナラ

嗚呼　ソノ狂オシキ痛ミニ耐エヨ


なんだっていうんだ！

おれがいったい何をしたというんだ！

正しい振りをしておまえら

純真をあきらめた自分を

正当化してるだけだろ！

周りにも同じようなやつらがいるからと

お手手つないで許しあっているだけだろ！

ひとりで耐えることもできず

本当の自分から目をそらして

孤独を認めるのが怖いんだろ！

弱虫め


おれは星が生んだ初めての星だ

ひゃらひゃら痛みに泣く人間の愛だ

やがて息絶えるときがくるとしても

永遠にこの大地に咲きこぼれてみせる

餌を求めるだけの親燕になるならば

一生孤独な鷹でいたい

宇宙であした最後の星が消え

無添加の闇が完成しようと

おれは首さえ吊りかけたあの覚悟へと帰り

あなたの名を呼ぶ

あなたの名をさけぶ


なめるなよ　おれは人間の愛だ

あなたはおれが守る

あなたはおれが守る

この世から滅んでしまえるものか

無条件に捧ぐおれは無償の愛だ

空をこえて広がる愛だ

報われることがなかろうと

満たされることがなかろうと

与えつづける俺は原始の愛だ

もうこれ以上失うものはない

これ以上の傷もない

人間を代表して今言おう

望むは純粋な心のみ