火



石になりたい

なにを感じるでもなくただ雨にうたれて

しづかにしづかに横たわつてゐる


いいや　石は石なりに

冷たいや淋しいや思ふのだらうか

あるいは雨おとに聴きいつてみたり


ならば無になりたい

そこには文字通りなにも無く

なにも無いということもおれは知らない


ああ　でなけりゃ

すべてを感じていたい

感じ漏らしたりするのはまっぴらなのだ

火

おまえのやうに

酸素だけに身を燃やすのは！

火　おまえのやうに

焼き払えぬものがあるのは！


知らぬ存ぜぬはあろうとも

ああ　己に感じ得ぬことがあるなんて

心に限りがあるだなんて


いやだ！

感じていたい　気づいていたい

生きるということはそれそのものだ！

感じ損ねたものを置き去りにしたまま

命を終えたくなどないのだ！


未だおれが感じ得ていないものとはなんだ！

まだ知らぬ感情とは如何なるものであるのか！

火より強い力がほしい

おれはいつ死ぬ

それまでに

すべてを感じることが！


ああ　でなけりゃ

はなからなにも感じない方がいい

堕胎を宿命づけられた

桃色の肉塊のやうに