| ひとつぶの砂 だれにも見られないように こっそり思いを綴った 鍵付きの日記はいつしか消え ミテ ミテ 皆さん と これ見よがしに ブログで日記をさらす日々 フェイスブックにプロフをのせて インスタグラムに自撮りをあげて ツイッターに持論をかかげて イイネ スキ 押して と これ見よがしに ネットでワタシをさらす日々 連行されてゆく途上で カメラにピースする犯罪者 作品よりもじぶんの名前を 前面に出したがる芸術家 顔写真アイコンの口から 放たれるあまたの正論 ワタシ ガ イイマシタ ワタシ ガ ヤリマシタ どこのだれかは知らないが 弱きを助けた月光仮面は はやてのように去って行った バッタの姿に成り代わり 悪を倒したライダーは 決して正体を明かさなかった 「せめてお名前を」と問われ 町むすめを救った侍は 「名乗るほどの者では」と答えた たぶんほんとうの正義は 奥ゆかしいもの おのれの手柄を ひけらかさないもの ほんとうにうつくしいものは 目立つことを嫌う 砂丘にそっと身をかくす ひとつぶの砂のように  |