お元気ですか。僕は今、旅先でこの手紙を書いています。
独身生活の最後を有意義に過ごそうと、一人で旅をしてい
るのです。天気がいいので、ここから岬がとても綺麗に見え
ます。風が少し強くて、何度もこの手紙を飛ばされそうにな
りました。昨日は一日中、小高い丘の上で寝っころがりなが
ら、昔のことを色々と思い出していました。僕は今日まで、ず
っと、あの時のことを償いたいと思ってきました。けれどとて
も償いきれるものではありませんね。謝ることさえ許されない
でしょう。でも、今なら、君は僕のものだったと自信をもって
言えるような気がします。君の表情やしぐさの一つ一つもは
っきり覚えています。特に僕の悪戯に真っ赤になって怒った
ときの顔は、まだ目に焼き付いています。きっとそんな時の
君が、僕は一番好きだったのかもしれません。あと３ヶ月も
すれば、君は苗字が変わってしまうのですね。僕達が同じ時
期に結婚するとは、神様の悪戯でしょうか。僕は君に「お幸せ
に」と言えるほど大人ではありません。子供みたいな意地を
張っている僕を笑ってやってください。
泣き虫だった君へ
お手紙拝見いたしました。一人旅をなさってるとはうらやまし
いですね。私は毎日毎日忙しくて、休む暇もなかなか見つけら
れません。新しい生活の準備に追われているうちに、一日が
過ぎてしまいます。近所では今、お祭りの後片付けでとても騒
がしいので、余計に落ち着きません。けれど、どんなに慌しい
日でも、あなたのことを思い出さない日は一日もありませんで
した。特にあの日のことはなかなか忘れられそうにありません。
私はあの日、皮肉めいたことを言ってしまったことを今も悔やん
でいます。それにしても、時というのは不思議なものですね。今
はあの頃のことをすごく冷静に受け止められます。私がからか
うと、口を尖らせてむきになって否定するあなたをとても懐かし
く思い出します。嘘をつくときにあごを触る癖はなおりましたか。
私はあなたの考えていることを見抜くことにかけては天才的でし
たよね。それだけが私の自慢だったのです。あの頃に戻・・・・・・
いや、これは禁句でしたね。この手紙が着いて一週間もすれば
今度は一人旅じゃなくて、ちゃんと相手のいる旅行ですね。あな
たの結婚式には顔を出しません。これが最後のわがままです。
どうかお許しください。
強がりだったあなたへ
