ぼくは嫌いなものの方がずっと多い

好きになれるものはごくわずかだ

たとえば洋服を買いに行ったとすると

気に入ったシャツを見つけられることなどまれだ

人も嫌いな奴の方が断然多い


昔、妹に好きなものを聞かれた時

最初に「ジミー・ペイジのギター」と言った

でも妹はＬＥＤ　ＺＥＰＰＥＬＩＮを知らなかった

ツェッツペリンを知らない人にペイジのギターを

説明することほど難しいことはない

それであきらめて次に「沙悟浄」と言った

妹は西遊記は知っていたけれど

あの役立たずの河童のどこがいいの？と言った

それで次に「七夕」と言った

妹はそれなら分かると言った

願いを短冊に書いて笹の葉に飾るのねと言った

でも僕が七夕を好きな理由は

織姫と彦星が年に１回　

しかも晴れた日にしか会えないからだ

それがどうして好きなのかを

うまく説明する自信がなかったから

話はそれでやめた


でも僕がほんとうに心の底から好きだったのは

妹だった

彼女はいつでも僕の味方をしてくれた

親父に殴られた時には

妹が氷で冷やしてくれたし

おふくろから「昔はいい子だったのに」と言われた日には

黙ってキャンディーを分けてくれた

僕がモエに恋した時

まだ恋も知らない妹は

意味もわからないのに応援してくれた

でも妹は２年前に死んだ

変質者にいたずらされた挙句に

山に埋められた

８歳の誕生日の前日だった


ぼくは世界を恨んだ

人間を心の底から憎んだ

その頃から僕の人格は急激にゆがみ始め

気がつくとペンを握っていた

僕に妹がいたことなんて

その後に知り合った人は誰も知らない

苦しさのあまりに

僕は妹が生きていたという証さえ

消したくなっていたのかもしれない

僕がこの年にして

こんなに老けた思想を描くようになったのは

本当はそれが原因だ

僕は今でも世界や人間を恨んでいる


誰になんと言われようと

この世界に好きなものなんてほとんどない

時間を巻き戻せるものがあれば

もう一度妹に会いたい