偽りの恍惚



時の激流を止められぬように

この街は手の内の快楽を捨てきれぬのか

夜を舞う娼婦の夢は何

床を抱く浮浪者の夢は何

つかもうとすれば擦り抜けてゆく現実だけど

初めから手の内にあるものなど捨ててゆかなければ


人波は生きる術を選ばない

太陽にすら見切りをつけられた

酔った顔つきの正義など何の役に立つのか

小猫の戯れの方が安らげる分まだマシだ

路地裏の理想と熱望は二律背反

街頭の勇気と情熱は不協和音


降りそそぐ幾種もの犯罪は欲得の代償であるが故

罪人の心の底は純色で彩られた哀しみなのか

すり傷程度の淋しさを癒す場所は腐るほどあるが

乱気流に呑み込まれた生傷を癒す場所はどこにもない

すべて偽りの恍惚であると気づいておくれ

目指すべき準星はこんなちっぽけなものではない

ありふれた幸せなど冷笑のもとに蹴散らしてしまえ

この腹黒い社会に勝ちつづけるために


崩壊という夜が過ぎ　絶望という朝が訪れる中

色褪せてゆく純真に紛れ込んで俺はただひとり

優しさを想う