| 十九歳 「スカボロ・ーフェア」を聴きながら スピーカーの上のベゴニアを見ていたら ふとつぼみがひとつ揺れた 咲いた花たちは止まっているのに か細い茎たちも揺れていないのに その黄色いつぼみだけが なにかに怯えるように一瞬ふるえた もしやと思ってＴＶをつけると ニュース速報が流れていた およそ７００キロ離れた町で 震度２の地震があったと わたしもレコードの針も ポール・サイモンもアート・ガーファンクルも パセリもセージもローズマリーもタイムも 枯れ落ちそうな褐色の花弁さえ気付かなかった 遠い地のかすかな揺らぎを この部屋の中でおまえだけが感じ 怯えたのか わたしは徳利に一杯の水を入れ 鉢植えの根元にお酌した 「５９番街橋の歌」と バラエティ番組の笑い声が混ざり合って 奇妙なハーモニーを奏でていた 咲きかけの小さなつぼみは 尖りながら押し黙っている 咲きほこる群衆にまぎれてひとり いつか清らかに花開くため 今は蓄えんといった顔で |