顔のないうさぎ



ほどよく笑い ほどよくはにかみ

出遅れもせず 出すぎもせず

それなりに清楚で なかなか素直で

目立ちすぎず 控えめすぎない

その絶妙のラインを

あたしはいつも探している


列を乱してはいけません

和を尊ばねばなりません

暗黙のうちに生まれた教室の戒律は

あたしを顔のないうさぎにした

それでいいのよ それでいいの

仲間はずれは死刑より怖い


親友を誓い合ったグループで

今日も一緒にお弁当

陰で悪口を言い合っていても

本人と会えば「ちゃん」付けの仲間

これができないと途端にあたしは

異常人間 イジメの対象


みんな仲良くしなさい

普通にしてなさい

先生は言う

みんな仲良く 普通に 仲良く 仲良く

頭を冷やしなさい わきまえなさい

普通に 普通に 仲良く 普通に

みんな仲良く みんな仲良くって

みんなとなんて仲良くできるか


普通にしてなさい普通になんて

どこかに「普通さん」という子がいて

普通に息をして 普通に笑い

普通に考え 普通に恋をして

ごく普通に普通の毎日を送っているとでもいうの

ああ「普通さん」に会ってみたい!


そして今日も

謙虚で可憐で元気がとりえ

アイドルとドラマの話題に合わせて

トイレも一緒 下校も一緒

決してはみださず 決して溺れず

主張は捨てて 思想を枯らして

ニコニコニコニコニコニコニコニコ

ああ ばかばかしい


こんな日常を繰り返して

いったい何が叶うのだろう

今のこの時を

あたしはいつか悔やむだろうか

ただもてあますばかりの若さや

飾り立てた自分

不安定な情緒

汲んでも尽きない愚痴

まだ誰にも触れさせたことのない

新鮮な肉体

退屈

壊れたくなる衝動と

無駄に強靭な自制心


もうこんな日々はうんざりで

女らしくではなく自分らしく生きたい

うわべだけの友達も 

周りの目を気にする自分もいらない

守りたいものがあって

それを愛しく思うからには

好きだと心から叫びたい


あたしはそんなに利口じゃないし

みんなが思うほど真面目じゃない

ただ顔を取り戻したいと願う

震える一羽のちいさなうさぎ

あたしは何者にもなれない


目の前にはただ草原が広がる

そこに転がっているはずの首を探すには

この後ろ足で地を蹴るほかない

おそらくはそれが生きるということで

あたしが何者にもなれないということは

何者もあたしにはなれないのだ