（「詩と思想2019年10月号」掲載作」） 　　蚊を殺した 両手でパチンと 蚊を殺した さほど後ろめたくは 感じなかった 両手でグサリと 象を刺したら きっと罪の意識を 感じるだろう ちいさな生き物も おおきな生き物も いのちのおおきさは おなじはずなのに ぼくはだれかに 牛や鶏を殺させながら 平然と過ごして いられるけれど もしもだれかが チワワやインコを殺したら なんて残酷なと 眉をひそめるだろう 食べても食べなくても 可愛くても可愛くなくても いのちのおもさは おなじはずなのに なんてうつろな基準 なんて都合のいい 自己正当化 ともすれば あの身勝手な殺人犯と 同じ血がぼくにも 流れてはいないか いまてのひらに 蚊が残した ぼくから吸ったはずの 赤くにじむ血に