けだものの分際



台所で女がパスタを茹でているあいだ

ふと庭をながめていたら

うすく積もった雪にまぎれて

小さな花が咲いていた


ぼくはひっかけたサンダルの底に

雪の泣き声をたしかめながら

そのくせ足跡はたしかめもせず

一歩ずつ近づいて腰をかがめた


白く吐いた息の先にあったのは

早咲きのハコベラで

彼女は挨拶もそこそこ

一輪ぽっち凍えていた


その可憐さを

ぼくはいつまでも眺めていたい

ぼんやり見とれ　話しかけ　ときに水をやり

小鳥や虫を追い払って

あとはただ愛でていたい


嗚呼　けれど　それとおなじくらい

根ごと摘み取ってしまいたい己がいるのだ

枯れさせてしまうと知っていてなお

狂おしいまでに奪わんと欲する

いやしくたけだけしい己が


けだものの分際で

花に焦がれてしまったからか

美シイモノヲ　ケガレナキママ・・・

否　貴女ヲ　ヨゴシタイ・・・


あかぎれの手を

花にのばしかけたところで呼ぶ声がした

部屋の奥から

トマトソースの香りがする