けんちんうどん



雪の街まで行くあいだ

サイドシートのきみは

ぼくがＵＦＯキャッチャーでとった

ラスカルを抱いていた

車は風より少しだけ遅く

雲より少しだけ速く

すいたり混んだりのハイウェイを進んだ


サービスエリアでとまると

ぼくらは一本のアメリカンドッグを

ふたりで食べた

ケチャップだらけになった唇を

互いに指さして笑いあった

それはとても柔らかな時間で

ぼくらはまるで恋人のようだった


雪の街に着くと

ぼくらは銀世界に乾杯をした

でもきみは鼻水を拭くのに忙しくて

ぼくがどれほどきみを

愛しく思っているか気づいてはくれなかった

空はすっかり晴れて

陽は積もる雪を照らした


新雪に足跡をつけて

喜ぶきみの横顔のほかに

この恋にはうたにするべき

おしゃれなアイテムが見つからない

トイレに行くときにきまって

平気で「おしっこしてくる」と言う人への

想いをうたにしようとすれば

下世話な情景をなぞることの他に

どうして誠を示せよう


きみの街まで帰るあいだ

サイドシートのきみは

先週７００円もはたいてとった

ラスカルを抱いていた

それはせつない風景で

あらいぐまごときに妬く自分が嫌で

半ばヤケになりながらぼくは

もろびとこぞりてを歌った


ハイウェイを降りてイルミネーションをくぐり

満員のレストランと満室のホテルを横目に

ぼくらは日本そば屋に入った

真正面から向かい合って

もう会うのはよそうと誓った

それは悲しい約束なのに

正しい約束で

ぼくらはけんちんうどんをすすりながら

さよならとは言わず

メリー・クリスマスと言った