肝だめし



木の枝で作った目印の前にしゃがむ

雪の中に埋めておいた缶ビールを掘り起こす

ロッジの窓から口笛を吹く仲間たちへ

一缶ずつ冗談とセットで放り投げると

窓の奥から彼女達のシチューが香る

やっぱりあそこしかねえなとこの山へ

毛布と食料を車に積み　また繰り出してきたわけは

去年の冬　雪があまりに綺麗だったからと

いつまでも僕らが変わりたくなかったから


シチューの成功を祝うように

仲間のギターに合わせて歌う

去年は男子担当の奇妙なカレーを

無理矢理押し込んだから歌うどころじゃなかった

あの頃　僕らには秘密も多く

悩みを打ち明けあうことさえぎこちなく

そして何より僕は君を

まだ女と思っていなかった

そのくせ今年は進歩があるかと思えば

ふたりが仲間のうちのふたりであるようにと

わざとそっけない素振りをする始末


午前一時に無茶を言い出す僕らの悪い癖で

吹雪のやんだ表へ繰り出す

ヴァージン・スノーに八足の足跡を残しながら

オリオン座の下で円陣を組み

時計回りでアイデアを出し合えば

いともたやすく多数決で決まる

二年目の冬の最終日は凍死覚悟の肝だめし

いつのまにか作ってあったくじ引きで

僕と君がペアになったのは奴らのしわざさ

森の入口から中をのぞくと

暗闇だけが口を開けて待っている


最初の組は女の子が泣きながら戻ってくる

次の組は男のほうが顔を引きつらせながら戻ってくる

僕は君を連れて静寂の森へ入ってゆく

前の組の足跡を頼りに第一関門を突破する

新しくできる四つの足跡に鼓動が高鳴る

呼吸がはやくなるけど怖いのはお化けじゃない

折り返し点で懐中電灯の電池が切れる

君が腕をつかむ　肌が硬直する

いつまでもこのままじゃいられない

埋めたはずの気持ちが強く蘇って来る

また雪が降り始める　風が吹き始める

体が熱くなる　凍えそうなほど寒いのに汗が流れる

あごが震える　ふたりは暗闇に答えを求める

安物の靴に雪がにじむ　自然にふたり立ち止まる

君が体を預ける　ここで肝がためされる

今から言うよ　と僕が言う

早く言って　と君が言う