岸辺の羊 五分後に島が沈む そのときぼくはきみと海辺にいて 岸には一艘の小舟があった それに乗れば助かるんだけど 一人しか乗れないっていうんだ いやな雲が空を覆っていてね 見たことのないはやさで潮が満ちてきた それでぼくはきみを舟に乗せた ぼくにももう少し自己愛というものが あるとばかり思っていたけれど 少しもためらわなかったな でもたまらなくこわかった 海の藻屑となることよりも きみに会えなくなることがさ やがてごごごごごという轟きとともに 島全体が沈みだして なんどさよならと叫んでみても きみの耳には届かなかった かなしい夢だったよ そして目が覚めてみたら きみが横にいた 不思議ね わたしも同じ夢を見たわ いやその続きと言うべきかしら 五分後に島が沈む あなたがわたしを舟に乗せる 一人しか乗れないなんて 馬鹿げてると思ったわ だからわたしは舟を降りたのよ あなたは泣きじゃくりながら わたしを舟に戻そうとしてくれた ちょうどそのとき 一匹の羊が通りかかったの それでわたしはその羊を舟に乗せた 羊が申し訳なさそうな顔をするから わたし笑って言ったの 「わたしたちはふたりでいれば 何もこわくありません」って やがてごごごごごと島が沈む音がして 目覚めたらあなたのいびきだった もしかするとここはもう 死後のせかいなのかもね でもわたしたちに中で永遠に 羊は生きてるわ