君



ああ　奇跡というものは本当にあるものだな

今　受話器の向こう側に君がいる

電話の仕組みについて知るところはないけれど

変わらぬ声が星の合間を縫って僕に届いている


もうどれくらい扉を閉じていたのだろう

あれほど触れてはならぬと言い聞かせていたのに

罪の回廊を抜けて　ふと気づいた時には

扉を開く鍵となる最後の一桁を押していた

二人を引き裂く神の裁きが下された日から

幾粒の雨が地上に舞い降りたか定かではないけれど

お気に入りのコートに袖を通す季節はこれで４度目だ

髪が伸びたとか背が伸びないとか　そんなことよりも

君がまるで　聖なる霧に包まれたような幼さと

清らかな銀世界に挑むような激しさで生きていることが嬉しい

君に新しい恋人ができたことを

当たり前のことのように受け止める僕は

それでも君に溺れたままでいる自分を噛み締めながら

もう誰かを愛さなければ君を忘れられないのか

君を忘れなければ誰かを愛せやしないのか

そんなことさえも分からずにいる


けれど君が幸せにたどりつくまでの道のりを

僕は永遠に見守っていよう

少なくとも今のその安らかな笑い声を

壊すことなどできない僕だから


時はやはり

最後には僕を敵にまわすんだね

歴史上のあらゆる人々が　試みては挫けていったように

時はやはり

すべてをそのままでいさせてはくれないんだね


ああ　哀しみというのは本当にあるものだな

今　君が　僕を君（くん）づけで呼んだ