クローン



材料集めから数えて２９ヶ月目にそいつは完成した

時間を増やすことができなければ体を増やすしかない

これがぼくの得た結論だった

睫の本数からアキレス腱の形までこだわるために

最後の段階でぼくはヒルに血を吸わせ

無理矢理そいつにのませた

完璧だった


それからは仕事や生活を分担した

互いに胸の内を知っているから事はうまく運んだ

体を増やしたことによって手に入った時間を使って

（時間を増やしても体は増えなかった　なんて画期的！）

ぼくは週に二度川べりを散策することができた

そして年老いた犬を連れて歩く少女と出会った

頭上を舞う鳥たちが恋の歌を奏でてくれた


少女の肌は新雪のようだった

自然な曲線に風の跡が絡みあっていた

少しアンバランスな目鼻だちは一層ぼくを虜にした

微笑みかけられただけで詩が千編も生まれそうだった

優しくされたりしたらその千編ごと滅びそうだった

少女はぼくを支配した　ぼくは現実の中に夢を見た

やっと自分を取り戻した


やがて秋が訪れた

突然　奴が自らを本物だと言いはじめた

生意気にもぼくを指さして

「おまえの方がクローンだ」と主張しはじめた

冗談じゃない　こっちが実体だ

オレガホンモノダ　違う　ぼくが本物だ

オマエガコピーダ　違う　おまえがコピーだ


奴も少女に惹かれているらしかった

ヒルなんて飲ませてしまったものだから

好みまでうつったのだ

奴は少女を狙いはじめた　やめろ　やめるんだ

少女は奴を見つめ始めた　やめろ　偽物だ

「クローンは出しゃばるな」　奴と少女が言った


夜が来て　ぼくは文化包丁を取り出した

通信販売で買ったお墨付きの代物だ

冗談じゃない　ぼくがぼくだ

そっと奴の背後に忍び寄り

振り返ったところをグサリとやった

見事に心臓を貫いた


ぼくは今こいつを地獄で書いている