右腕 小学校に上がったか上がらないかの 或る秋の夕暮れどき 部屋でひとり 超合金のロボットと ソフトビニールの怪獣を戦わせていたら とどめのパンチをおみまいした拍子に ロボットの右腕が肩の付け根からポキリと折れた せっかくの熱も一気に冷めてしまい 正義の敗北にも半ば失望し わたしは父のいる居間へと降りていった 「ねえ、こわれた」とロボットを差し出すと 父は夕刊に向けていた目をゆっくりと上げ 「ひとのせいにするな」と言った わたしは父の言う意味が分からず ただ何かひどく間違えたような苦さを感じて 胴体から切り離され頼りなさげな 超合金の右腕を見ていた 途方に暮れるわたしに向かって 父は静かにこう続けた 「こわれた」とはなにごとだ おもちゃがじぶんで壊れるはずなどなかろう おまえが手を下したからこういうことになった それは「こわした」というのだ おもちゃのせいにするな 正義のもげたロボットの顔は 主人に裏切られた猫のように悲しげだった それ以来 今でもだれかとこじれたり なにかが損なわれたりすると 反射的に自分の中に原因を求めてしまう 己を正当化しようとするたび 右腕の付け根がきしむのだ  |