みなと 船がたくさんあるね あれはみんな漁船なのかな おじさんは海のない街で育ったから ここからの風景は新鮮だよ みなとくん　きみの名前はたしか このけしきを好きだったお父さんが つけてくれたんだったよね 波のおと　潮のかおり　しずむ夕日 この街で暮らすことは それらとともに生きることだろうね あ　あれはカモメの鳴き声 それともウミネコかな おじさんにもいつか 聴き分けられる日がくるだろうか きみはかしこい子だから きっと勘ぐっているだろうな この男はぼくの機嫌をとって 取り入ろうとしてるんだなって それは認めるよ この際だからごまかしたりせず 正直に話そう みなとくん きみには好きな女の子がいるかい とってもたいせつで できることならずっと 笑っていてほしいなって思う子が それとおんなじ気持ちでね おじさんはきみのお母さんが好きだ それが正しいことなのか 実はおじさんにもよく分からない おじさんがみなとくんだったら すごくいやだろうなと思う おじさんがきみのお父さんだったら 天国から見ていて おまえなんかあっち行けって思う きみのお母さんが一番好きなのは お父さんとみなとくんだ それはずっと変わらないし そうであってほしいと思う きみからお父さんって呼ばれようなんて 虫のいいことも考えてない ずっとおじさんでかまわない ただ　できることならば おじさんはきみと手を組んで お母さんをしあわせにしたい 今日はそのことを伝えたくて 一対一で話したくて きみに会いに来た 説き伏せようなんて気持ちはないから ゆっくり考えてくれればいい きみに隠れてこっそりと お母さんに会ったりもしない 約束するよ そこはフェアでいこう この港街で獲れる 美味しい魚を教えてくれないかな カモメとウミネコの違いを 説明してくれないかな そんなのずるいって思うなら たしかにおじさんはずるい大人だ でもね　みなとくん ずるくても煙たがられても おなじ一人のひとを 守りたいとねがう男同士として おじさんは　きみと ともだちになりたい そして　できることなら きみとお母さんが これから人生の海原へ ともに漕ぎ出してゆくのを 見まもりつづける 港になりたい