水たまりに映る虹



制服のときとは違う顔で

たそがれを待っている少女

人通りを避けたほそい路地で

うす桃色の唇をかんで


ホントノジブンがわからないと

ため息まじりに少女は云った

華奢な肩をふるわせて

のしかかる曇天に背をむけて


聞かせてよ

胸のよどみに浮かぶ小舟の話を

ゆっくりでかまわないから

風が吹き　波が荒れはじめたら

悲しみは残らず雨にして

降らせてしまえばいいんだよ


上手な笑顔がつくれないと

いら立ちながら少女は云った

まわりの視線を気に病んで

守りたいものばかり失って


からみついた薔薇の棘を

そっとほどいてあげるから

どうかワカラヌジブンごと

ぼくに見せてくれないか


笑ってよ

生まれたままの取り繕わぬ顔で

通りすぎた雨のあと

うつむけば　水たまりに映る虹

さあ　消えぬうちにその橋を渡り

こっちへおいで


そして一緒に空を見よう

なんの変哲もない無限の下には

まぶたを腫らしたきみと

のどを潰したぼくと

枯れ横たわる薔薇の茎


ここで一緒に空を見よう

やがて虹は消えてしまうけれど

それと引きかえに広がるのは

ごらん　雨あがりを待ちわびていた

無敵の夕焼けだ