虹



君の心には裏がない

この腐食した世界では

祝福されない命が群れをなし

呪われた純真が泣き叫び

脳は電磁波にやられ

誰もが自分を偽るけれど

君の心には嘘がない


虹　と君は言った

バス通り越しのむこうの空

たしかにそこに虹はあった

現実主義のぼくは

神秘も奇跡も信じやしないのに

君が虹を呼んだと思った

虹　と君は復唱した

そうだね

虹だ


そのあとで君は

かばんをさんざんあさったあげく

海のない街で育った僕に

小さな白い貝殻をくれた

君のかばんはきっと

ドラえもんのポケットみたいに

はてしない四次元につながっているんだ


君の心には影がない

この矛盾した世界では

時には正しさが血ヘドを吐き

妥協したもの同士が慰め合い

夢は夢だとさげすまれ

誰もが自分を見失うけれど

君の心には雲がない


僕は君と出会い

太陽は照りつけるものでなく

降りそそぐものだと知った

雨は打ちつけるものでなく

うるおすものだと知った

涙は悲しいものでなく

美しいものだと知った

僕は君と出会い

生きるとは

前に進むことだと知ったんだ


君の心には裏がない

迷える生命に優しさをくれる

君の心には裏がない

八月の青空を渡り歩く

君の心には裏がない

無垢であどけない原色の羅列

そう

君の心には虹がある