目覚めた瞬間 洗面所に運ばれた
薬品の匂う湯が ほどよく顔を流し
温風が頬の雫を蒸発させた
半ばあくびぎみに あごを下ろすと
回転するブラシが奥歯を揺すり
同時進行で行われた整髪が決まる頃
正された襟元に 時間を知らせるベルが鳴る
そして ふと気がつくと
僕の両肩から ぶら下がっているのは
形のよい二本のさとうきびだった
そのまま地下室に運ばれた
腹と胸にベルトの掛かる音がすると
定刻通り エンジンがうなりをあげた
教室の席まで通じるケーブルは異常なし
座ったまま ボイスの命令で自由に動ける
今日は午後の授業から教室を移動するから
レールの敷かれた廊下で あの娘と一瞬すれ違うさ
そして ふと気がつくと
僕の腰元から はえていたのは
膝のない二本の鉄パイプだった
もう君を抱きしめることができない
さとうきびが腐り始めたんだ
もう君のもとへ駆け寄ることもできない
パイプが錆び始めてしまったから
いや もはや 君のことを好きなのかさえ分からない
だいたい君が人間だということさえ信じ難いよ
僕自身 この左胸の奥にあるのが
心臓なのか ダンボール箱なのか
分からないのだから
