王子焼き 仕事がどうのと言う 生き甲斐だとか社会的意義だとか言う 達成感を拠り所にして そこに意味を後付けして 本当はただ 必要とされている実感を得て 輝いてる己に酔いたいだけ ドラマの主人公に重ねてみたりして 金がどうのと言う 手当だとか歩合だとか昇給だとか言う 生活のための仕事だったはずが 仕事のために生活を合わせ 無理をしている　苛立っている 裸の己に自信がないから 守ってくれる鎧を探して なまくら刀を数字で磨いて 時代がどうのと言う 歴史がどうとか現代社会がどうとか 子らのため環境のため未来のためと 具体策のない理想を語り 酒をくらっている 愛しきものを抱く間も惜しんで 幻想の中に逃げ込んで だれのため　それはだれのため 真理がどうのと言う アンガージュマンだとかビルドゥングだとか 形而上学だの脱構築だの二律背反だの カオスやアガペーやリビドーや 資源ゴミの分別もできぬ頭で ビジネスもハピネスもいっしょくたで 花の水やりさえ忘れるくせに 醤油のありかすらわからぬくせに 己の中に棲みつく 半熟の王子を焼き払え 砂糖をまぶしたような 未熟な言い訳を炙り出せ ぼくらが夢中になって追う 形なき瑣末なプライドなんて 生活の女王が用意してくれた 目に見える命の糧に比べたら 上着を脱いで　ほこりを払い 今宵はじっくりと味わおう シンプルでリアルで少し焦げ目のある 甘すぎないあなたの玉子焼き