三角形に張り詰めた糸



助手席の君の横顔はとても不安げ

ごめん　こうするしかなかったんだ

もうあの三角関係の中にはいられない

このままじゃ三人ともだめになる


ヘヤピンカーブを曲がると海が見えてきた

君はさっきから黙ったままサイドミラーを見ている

わかってるさ　怒ってるんだろ

俺だって自分に腹を立てているさ


躊躇している君をむりやり車に乗せるまで

俺は地獄を歩いてきたんだ

けれどそろそろケリのつけどきだよ

君だってこのままでいいとは思わないだろ


ああ　あいつとの約束を破ってしまった

お互い抜けがけはしないって決めていたのに

開き直ろうとすればすればするほど苦しい

潮風がこんなに冷たく俺を責めている

うみねこが横切ったのに驚いて急ブレーキを踏んだら

やっと君が笑ってくれた

そうしたら俺は本当は安心したくせに

今は笑っている場合じゃないぞなんて言ってしまった


ああ　これじゃまるで駆け落ちだ

強引に気持ちを固めた俺と

思いが駆け巡っている君の

決して許されることのない危険な逃避行


飛ばすぜ

もうやりきれない

このまま海に飛び込んでしまいたい

今なら何でもできそうだ･･････


夕暮れの浜辺に車を止めると

ふたりで波を見つめた

俺はずっとあいつのことばかり考えていた

きっと君も横で同じことを考えているだろう


夕陽が水平線に沈み　灯台に明かりが灯った

空缶が波間に見え隠れしている

９９回目の波が押し寄せた瞬間

いきなり君の肩を強く抱き寄せた


「やっぱり戻ろう･･････」俺は何故か一言そう言った

君は泣きながら小さくうなずいた

俺たちは砂浜に足跡だけを残して

車に乗り込んだ


俺は肝心なところでいつもこうだ

帰ったらあいつにすべてを話そう

たぶん殴られるだろうな

もう既に自分の弱さに叩きのめされたけれど


解決策など何処にもないのが恋だ

言ったり来たりの繰り返しで　とどまることを知らない

結局　俺は三角形に張りつめた糸の

どの辺も切ることができずに

夜のインターチェンジへ向かってアクセルをふかした