さんまVSシーラカンス



悪魔と天使を兼ね備えた女は

いきなり猫のように転がり込んできて

私に制する暇を与えぬほど

明石家さんま並みにしゃべりまくった


元来　恋に受け身な私は

彼女が放つ言葉のマシンガンに圧倒され

へえとか　はあとか　言ってる間に

なかばサルベージされかけた


いいえ私には想う人がいて

まったく困ってしまいますと

言い終わらぬうちに女は笑い出し


「はてさてその人はこんな女に

たやすく入りこむ隙を与えてるじゃない

それ　あなた愛されてない証拠

だいたいその女と前に寝たのいつよ

ほっとかれてるってことでしょうが

自分のことしか頭にないような女に

こんな淋しがり屋の坊や

抱え込める資格なんてないの

アタシにしなさいな　アタシがあなたを

一生元気ニシテアゲル」


と　ここまでを女は

息つぎもせずに

約２３秒で言い切った


そんな無茶苦茶な話はない

私は理性を重んじる善良な市民だ

しかし翌日　女は私のうたの感想を

３６枚の便箋に書いてよこした


女はインターホンを鳴らし

ドアを開けると強引に入り込んで

男の欲望を手玉にとったような

卑怯極まりない手段に出た


ヒトラーとガンジーを兼ね備えたような女は

アメーバのように入り込んできて

拒否を左手で受け流しながら

右手で頭（私の一番弱いとこ）を撫でた


悪魔と天使とヒトラーとガンジーを足すと

明石屋さんまになるなんて

フジテレビも知るまい


私は押し倒され

乳房と天井を見上げている

秋の風が網戸を通して

部屋の中を吹き荒れている


それでも女はしゃべり続ける

言葉のスコールは私を濡らし

私は魚へと回帰する

シーラカンスへと退化する


海底に置かれたサバイバルナイフを

どちらが先に突き立てるか

ベッドを泳ぎながらもがく

見捨てられた者同士の憐れなレース