千の骨になって



死ぬまで一緒にいようと言ったのは本当だった

わたしたちの愛は　ときに松明の如く燃え

ときに褥のようにたがいを安らげつづけた

こうしてわたしが死んでしまうまでは


ちょうど今日のような暑い日だった

焼けたアスファルトの上には突き飛ばされたあなたと

ＢＭＷのタイヤ痕とわたしの屍があった

救急車よりも先にマスコミが来た


あなたは涙に濡れ　ひとりぽっち取り残された

暮らしは生気をなくし　未来への望みも見えず

何をする気も起こらなかった

ただ仕事だけは休めないと三日後から会社に行った


たくさんの人がわたしの死を弔い　あなたの不幸を悲しんだ

同僚のひとりがとくにあなたを慰めた

きみを悲しみの中に取り残すわけにはいかないと言った

わたしに構わないで　とあなたは拒んだ


しかしその人は　あきらめなかった

ずっと前からきみを思っていたんですと言った

いつまでも死んだ人のことを想っていても仕方ない

きみはきみの人生を考えるべきですと


その人の言葉で　あなたは勇気がわいた

やがて罪悪感まじりの恋ごころさえ抱きはじめた

その人は　やわらかい笑みで未来を提示し

凍りついたあなたの心を溶かしはじめた


ああ　やめろ！

そんな目で見つめるのはよしてくれ！

あなたの心が他の人に奪われるなんて

そんな地獄よりもひどい話！


ふたり　誓いあったじゃないか！

心変わりしないと約束したじゃないか！

まだあなたを愛してるんだ

体は死んでも　愛は死んでいない！


時の助けを借りて　あなたはつぶやいた

やはり淋しさには勝てない　ひとりで生きるのは辛すぎると

そしてあなたは顔を埋めた

健康でたくましい年収８００万の胸に


やめろ！　わたしの人に触れるな！

生活できるとか抱けるとか笑えるとか

そんな下世話なもののために

わたしたちの純真を汚さないでくれ！


千の風になって　大きな空を吹き渡ってなどいない

千の骨になって　土の下あなたを想ってる

わたしのお墓の前で　泣いてください

生きる者の都合で　風化させないでください


どれほど叫んでも　死者の声は届かず

生きているものは幸せを目指すばかり

死んだ者は時々思い出せるところに片付けておいて

残されたときを少しでも楽しまんと


死ぬまで一緒にいようと言ったのは間違いだった

永遠に愛し合おうと誓うべきだった

あなたはわたしより　自分を愛してたのかい

あなたはわたしより　幸せが好きだったのかい・・・


口が利けない　体も動かない　抱きしめることすらできない

ならばあなたが揺れるのは無理もない

その人がわたしより決定的に優れている点は

生きているということだ


愛の前提条件は命なのか

死者に愛される資格はないのか

愛には肉体が必要か

死は愛を凌駕するか


盛夏　あなたはわたしの墓前に花を供えた

幸せにやっていますので

どうか心配しないでくださいと手を合わせた

六つの手が並んでいた


やがて家族は坊主に一礼をすると

グレーの高級外車に乗り込んで寺を出た

そしてクーラーのよくきいたファミレスに寄り

仲良くスペアリブを食べた