深夜タクシー



わけえのが車の中から女を引っかけてやがんのさ

それでこんなに混んじまう

だから金曜の夜ってのはあっしも嫌いでね

こんな遅い時間までやっていやがんだから

お客さんはお仕事の帰りですかい

たいへんですねえ

へえ　塾の先生さんですかい

うちも受験生の娘をかかえてるんですがね

天地がひっくり返っても私立は無理でさあ

いやね　タクシードライバーってのは

本当に金にならない仕事でねえ

カアチャンに頭が上がんないんだねこれが

もう八年になるんですがね

最初なんてひどいもんでしたよ

ひと月の給料が九万

それで暮らしてたんですからねえ

あっしの妹の旦那ってのがまた金持ちでね

毎年　なんですか　グアムだのスイスだのって

うらやましいったらありゃしない

余計カアチャンに申し訳ないやね

あ　ここ右ですか

熱海にも連れていってやれないんですからね

いや　でも世の中ってのはわからんですよ

このまえ酔っ払いを乗せたらね

社長さんだとかで携帯電話が鳴りっぱなしでね

それは立派な身なりだったですよ

それが降りるときに金がないと言うんでさあ

倒産寸前とかでね

近いうちに払うからお茶でも飲んでいけって

どうしてもって言うんで

ちょっとだけあがって話込んだんでさあ

ありゃあ豪邸でしたね

結局いまだに払ってもらってないんですがね

あんな豪邸に住むにはどうしたもんですかね

あ　ここでいいんですか

いやいや　ありがとうございました

お客さんは独身ですかい

そうですか　これからですねえ

いやあまったく八年ですけどね

ほんとカアチャンには頭あがんない

こんなあっしと一緒にいるんですからね

見上げたもんでさあ　ほんと