シオン



シオンのひかえめなやさしさは

憎いほど印象に残りません

冬支度にむかう人の群れに消され

やがて忘れ去られてしまいます


シオンのやさしさはさりげないので

ときに人はお礼も忘れます

それでもシオンははにかみながら

小さな気づかいを絶やさずにいます


シオンは損な役回りで

気の毒だとは私の見方で

当の本人は気にもとめずに

笑顔が好きなだけですという笑顔


キキョウのようにもてはやされることなく

ヒガンバナのように厚かましくもなれない

荒野にひっそりと咲きながら

今日も幸せの種をまくのです


ああ　晩秋の大空よ

そのふところに彼女を映したまえ

もし空がどこまでも繋がっていて

だれの上にも同じ空があるなら

大空よ　シオンをその胸に

どうか抱きたまえ


私は平和にも愛にも無力ですから

せめてこの歌を捧げます

いつか世界がシオンの花束で

埋め尽くされますようにと