しっぽ ある朝　目が覚めると 尾てい骨あたりに違和感があった 生あたたかく　くすぐったい まさか　いやそんなはずは おそるおそる手で触れてみると いやな予感が的中した しっぽだ なぜこんなことになったのか 野生に還るようなことをしたとすれば 昨日の夜　ベビースターを 手づかみで食べたくらい でもそれなら彼女だって 隣りで眠るひとの臀部に触れると つるんとしていた これはたいへん困った事態だ まずぼくはこれから 会社に行かなければならない まちがいなく同僚たちから 「そのぶら下げてる毛深いのなに？」 と聞かれるだろう　というか なんでここだけ毛深いんだ たとえば上司に叱られて しっぽをだらんと下げてしまったら 落ちこんでるのがばればれだ プレゼンテーションの最中に しっぽが小刻みにふるえたら 不安なこともつつぬけだ なんたる屈辱 たとえば営業先で しっぽの毛を逆立ててしまったら 強気に出ているのがばればれだ 取り引きや駆け引きの最中に しっぽを足の間に挟んでしまったら 降参してるのもつつぬけだ しっぽをつかまれる そんな焦りを示すかのように しっぽはぶるぶるとふるえている その振動で彼女の目が覚めたので ぼくは正直に打ち明けた しっぽが生えてしまったことや それにまつわって予想される 困難のかずかずを すると彼女は目をこすりながら それは良かったわ　と言う これでやっと口下手のあなたが 何を考えてるか分かりやすくなったし 万が一浮気なんかしても 嘘をつけなくなったんだもの 好都合ね そう言って彼女は やさしく頬にキスをした しっぽが左右にふりふりする ちょっと待って　見ぬかれちゃう でもしっぽはいうことをきかない 彼女はぼくをだきしめる ああ　しっぽの ふりふりがとまらない