曽根吉と六助とカエデ（new version）



六助は嫉妬から鉄アレイを振り上げて

曽根吉の頭蓋骨に投げた

曽根吉は膝から崩れ落ち

畳の上にごろんとなった

（ファンには申し訳ないが、この物語の主人公たる

曽根吉はここで出番を終える）


六助はもう一度鉄アレイを投げた

証拠隠滅にふさわしい村の湖に

すると一面に霧が立ちこめ

湖面から老人が現れた

「おまえが今落としたのは金アレイか？　それとも銀アレイか？」


六助は冷静さを欠いていた

「フェラーリです」というつもりが

「フェアレディーＺです」と答えた

老人は耳たぶを掻きながら

「おぬしは正直者じゃ。褒美を与えよう」

（老人ファンよすまぬ。友情出演にギャラは出ないのだ）


サラリーマンを辞めた六助は

親の持つ広大な畑を譲り受けた

遊びの間に畑を耕やして

とうもろこしの種を蒔いた

みるみる伸びたとうもろこしは豊作で

驚いたことに紅色の実をつけた

齧ってみると美味だった


新種とうもろこし「曽根吉」は

爆発的に売れた

六助は億万長者となって

フェアレディーを売りフェラーリを買った

調子に乗って豚二匹と子供一人轢いた

やがて郊外に九万坪の家を建て

かつて曽根吉の恋人だったカエデをめとった


六助は妻の作ったコーンバターを食べ

昼まで眠り夜には妾を抱く生活の末

ひそかに時効という勲章を手に入れた

妻は浮気に気づかない

六助はやりたい放題で

時々カエデに暴力もふるった

ははははは

六助の高笑いは今日も畑に降る


僕は６年前　この物語の結末として

これに続く　救いようのない７行を書いた

なぜそんなにひどい結末にしたのか

その動機も根拠も今では思い出せない


僕はこの７行を削除することにする

歳をとったということなのかもしれない

あるいはその結末に憎しみを覚えたからかもしれない

それさえもよく分からない


人は何かを消すことで

前に進むこともあるのかどうか

人は闇を消すことで

光を見つけることもあるのかどうか

ただそんなことを

試してみたいだけなのかもしれない