そして俺は魔王になる 異国の少年が 路上の片隅で芸術を広げている 頬を赤らめた少女が シャボン玉に優しくくちづけている パントマイムのピエロの足元に コインが投げ込まれている 鼓笛隊の織りなす喜びのメロディーが コンクリートに跳ね返っている そして今夜俺は魔王になる 吊り橋の溜め息が 川に落ちてゆっくり流れている 貴族を乗せた馬車の御者が 葉巻をくゆらせている タップダンサーのヒールに蹴られた石ころが カルメンを踊っている オルゴールからこぼれたサファイアが 水瓶座を追い駆けている そして今夜俺は魔王になる 鐘が鳴り止んだ教会の前で 酔っ払いがせせら笑っている ニュースペーパーが風で舞い上がり 恋する小鳥達を邪魔している 流れ星が躊躇しながら 明日の天気を占っている 街路樹が丘の上に咲くコスモスを 口説き落としている そして今夜俺は魔王になる ソフトクリームを舐める女の群れが 雪の降る確率を計算している アスファルトの下の孤独が 子供達の足音に慰められている 街灯を眺める寂しがり屋の浮浪者が 詩人の足にすがりついている 積み上げられた煉瓦の破片が 森のノイズに耳を澄ましている そして今夜俺は魔王になる 雲に隠れた三日月が 我慢しきれずにくしゃみをしている 池を滑るアメンボ達が 平和の形を縁どっている 泣き止んだ赤ん坊が 枯葉の落ちる瞬間に目を奪われている キスの途中の恋人達が 天使のあくびで我にかえっている そして今夜俺は魔王になる 今夜俺は魔王になるのだ すべての悪を支配して この街に指一本触れさせぬために