旅人



おれは旅人だ

地図をやぶり捨て コンパスの針をもぎとり

その結果 聖地を目指したはずが

流氷の上に佇んでいるような愚かな男

たとえばしもやけの足に悩んでいる

できそこないのペンギンに見えたとしても

おれは旅人だ


おれは旅人だ

水は飲み干し 食料も尽き果て

太陽を探していたはずがネオンに導かれ

繁華街で途方に暮れるようなみじめな男

たとえば今日の寒ささえしのげるかどうかの

あわれな浮浪者に見えたとしても

おれは旅人だ


なぎ倒された大木をまたぎ

茨の傾斜を駆け上がり

乾いたアゲインストを掻き抱き

真冬の海に身を泳がし

目指すべき場所も分からぬままあがいている

だとすれば人はみな旅人だ

たとえば形なき情熱に命を吹き込む

むなしき詩人に見えたとしても


我々は旅人だ

答えなきでこぼこ道の

たかが霜柱で足をくじく

それでもきみよ 旅人ならば

現状を捨てて

明日をもぎとれ

純真を貫かれても

涙を見せるな

そして


心を吹き抜ける風を感じろ

耳をふさいでうたを聴け

瞳を閉じて真実を見ろ


おれは旅人だ

海路図を燃やし 舵をねじ曲げ

インド洋に向かうはずが太平洋上にいる

そんなもの旅ではないとぬかす者がいたとしても

おれは旅人だ

きみも旅人だ

我々は海原をただよう

巨大な疑問符だ