哲学少年と文学少女



理屈好きのふたりは

街の小さな図書館で

何の前ぶれもなく出会った


少年はいつも哲学書を研究していて

少女はいつも外国文学を読みふけっていた


時の流れとともにふたりの仲は近づいてゆき

しだいに一緒に図書館に通い始めた


週末には二人で公園に行き

ベンチに腰掛けると難しい言葉ばかりを交わした


夜になると丘に登り　星空を見上げながら

少年は哲学者きどりでプラトンについて語り


黄昏どきになるとふたりでいちょう並木を歩きながら

少女は小説家きどりでサガンについて語った


ふたりが喧嘩をするといつまでもケリがつかなかった

なにしろ二人とも理屈好きだったから

口論は日が暮れても終わるはずがなかった


互いに巧みな表現描写を胸に携えていたわりに

素直に気持ちを表せずに悩んでいた


少年はああでもないこうでもないと

ふたりの関係を分析し

少女はああでもないこうでもないと

ふたりの未来を言葉にはめた


ふたりは会うたびにやるせない気持ちを抑えたまま

深層心理の知識に頼りながら見つめあった


互いに作り笑いや照れ隠しばかりが上手くなり

反比例して不安に沈んでゆくばかりだった


ある日　少年は思い立って

少女を川べりに呼び出した


夕陽が沈みかけた頃

少年は哲学書を燃やしながら気持ちを打ち明けた

少女は読みかけの本を川に流しながら静かにうなずいた


こうしてふたりは突然結ばれ

急に力が抜けたように笑いあった


やがてふたりは結婚し

小さな家で新しい暮しが始まった


恋の前に理屈は無力だと悟ったふたり

そして

やんちゃな男の子と　おてんばな女の子

そんな家庭のささやかな暮しが