つぼみ



ぼくは見た　白百合をも嫉妬させるあのあどけなさ

ぼくは見た　雪をも逆上させるあの純情

あれでも人間か！

なんということだ　神よ　教えてくれ

いったいこの世のどんな男と女が結ばれたなら

あれほどの完璧さを生むことができるのだ

ああ　絶え間なく繰り返す大自然の営みさえ

手を休めて見とれようとは！


さあ　ヴァージニティーの花を冠にさしたら

今日の黄昏どきをもって

白色世界の頂点に君臨するんだ

それを宇宙が認めないのならば

宇宙が間違っている


ああ　恥らううつむきに

脊髄がいかれちまう

しぐさが無意識であるぶん余計に

ただならぬ鼓動の高鳴りを植えつけ

ぼくは人間を超越し（あるいは堕落し）

新種の生き物のような未知の感情が

左心房だか肺胞だか肋骨だか

固定し得ぬ胸元あたりに響くのだ


ぼくは見た　自然の摂理を先天的に秘めるあの肌

ぼくは見た　温室の花より雑草に美を見るあの感性

対象美化さえ追いつけない

空想さえ打ち負かした実体が胸をうがつ

おお　このピュアネスの原形が

いつか成長につけこむ醜い視線に汚されるなら

いっそ　その白さを記憶に焼きつけるなり

ああ　ぼくはこの両目を

ライターの炎で焼いてしまいたい


どうか　ああ　どうかあわれな男の

望みを奪わないでくれ

残された聖域は

たどりつくことを許されずとも

なにかに侵されるなら　ぼくはこの先をどうやって

どうやって･･････


多感で脆いあなたの純度が

争いや不実さに狂わされてしまわぬように

守ってあげよう　その小さなつぼみは

何色にも染めさせたくない

ようしゃなく巡り来る季節の中でも

無垢な魂をその胸に燃やしつづけてくれるなら

ああ　残されたぼくの寿命をすべて

今　あなたに捧げてもいい