昔々あるところに おじいさんとおばあさんがいました
ふたりの子供は子供を生み その子供が子供を生み
そのたび語り伝えられてきた物語は
もはや語り伝えられぬ時代の現実に溶けました･･････
小槌を手に入れた男達が欲しいものは
身長じゃなく もうひとつの小槌
求婚された女達のねだるものは
蓬莱の玉の枝じゃなく 肖像画の紙束
きび団子を食べた少年が倒すものは
赤鬼達じゃなく 仲間はずれの級友
靴を忘れた少女達が乗りたいものは
かぼちゃの馬車じゃなく 高級外車
いつだって勝利を収めるのは俊足の兎
悲劇を気取るジュリエットと 中身のない光源氏
馬鹿なだけのイワンと 下半身丸出しの人魚姫
ある日 いたたまれなくなった現代都会少年は
ホールデン・コールフィールドと口笛を吹き
チャーリー・ゴードンと肩を組んで
海辺へたどりつきました
すると亀を助けている人たちがいたので
思わず嬉しくなって駆け寄ったのです
そして こう話し掛けました
「まだあなた達のような人がいたのですね」
すると彼らは こう答えましたとさ
「え？ なんだい おめえら知らねえのかい？
亀を助けると龍宮城に行けるんだぜ」
